お口の機能を衰えさせる主原因である、自分の歯の数と認知症の関係を調べた研究があります。

 認知症の認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に4年間の観察研究を行い、性別・年齢・生活習慣に関わらず、自分の歯がほとんど残っておらず、義歯を使っていない群と、自分の歯が20本以上残っている群を比較したところ、前群の人たちのほうが、認知症を発症するリスクが1.9倍も高いことがわかりました。また、オーラルフレイルなどの要因から社会的フレイルを発症した人は、そうでない人と比べて認知機能が低下する可能性が1,8倍になるという報告もあります。なお、自分の歯がなくても義歯を入れて補っている人は、認知症リスクが4割程度抑えられるというデータも出ています。

 また、オーラルフレイルが認められた高齢者は、4年後の身体的フレイル発症リスクが2.4倍、サルコペニア発症リスクが2.2倍になり、さらに要介護リスクが2.4倍、総死亡リスクは2.2倍に跳ね上がります。

柏スタディの成果

 東京大学高齢社会総合研究機構が2012年から実施してきた大規模長期縦断追跡調査「柏スタディ」では、高齢者が健康寿命を維持するために予防すべきフレイル、サルコペニア、そしてオーラルフレイルという新しい知見を提示してきました。

調査に参加して自分の状態を知り、生活改善を試みた人々はフレイル、オーラルフレイルともに改善された結果が示されています。

 柏スタディの研究開始から半年後の調査で改善項目が増えた人からは、「フレイルと社会生活の関りが密接なことが理解できた。今よりも少しでも社会参加を心がけたい」「人と関わるこおがやはり元気の素だと思った」「歯科は月1回受診する。一人暮らしなので食べることは、命を磨くこと、感謝する心、幸せ感を常に保つこと」など、前向きな意見が目押しです。また、参加者の7割以上がフレイルに気を付けるようになり、6割以上がしっかり噛んで食べ、運動をするようになっています。

 すでにフレイルやオーラルフレイルの状態になっている人でも、本人が自覚して努力することにより、健康な状態へ戻ることができるということをしっかり認識してほしいと思います。

メタボからフレイルへ、ギアチェンジ!

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)、略して“メタボ”は、もはや知らない人がいないほど周知されました。メタボは生活習慣病の指標となります。

 働き盛りの30代~40代を中心に、現在では多くの人がメタボを気にしています。見た目がよくないのはもちろん、メタボを要因の一つとする病気のリスクも広く知られています。

 確かに、わが国では、予備軍も含めると、糖尿病患者が約2千万人いると推計されていますし(厚生労働省「平成28年国民健康・栄養調査」より)、高血圧症や脂質異常症の延長線上には、心臓病や脳血管疾患の危険性が潜んでいます。そこで、国を挙げてメタボ予防が盛んに宣伝され、自治体や企業でメタボ検診が行われるようになりました。

 自治体の特定健康診査の場合は40~74歳が対象です。そのため定年世代である60~65歳を超えてもメタボをきにして、ダイエットのために糖質を制限したり、食べる量を減らしたり肉を減らして野菜を増やしてる人もいるでしょう。しかし、個人差はあるものの、高齢者はタンパク質から筋肉を作る働きが弱く、タンパク質不足で筋肉が減少してサルコペニアを招き、フレイルへと進んでしまう可能性が高いのです。これを知らないと、加齢にしたがって忍び寄るフレイルを自ら手招いてしまうことになりかねません。

 実は、加齢に伴うフレイル対策をするには、働き盛りの40代の頃からきちんとした生活習慣と栄養摂取方法を実践しておくことが重要です。もちろんメタボ対策は大切ですが、その一方で、将来に向けてフレイル対策へとギアチェンジするべきであることもよく認識し、自分の身体や健康に向き合っていただきたいと思います。