キーポイントは定期的なクリーニング
「かかりつけの歯科医院をもっていますか」とたずねると、80%~90%ぐらいの人は「もっている」とこたえます。しかし問題は、そのかかりつけの中身です。
悪くなるたびに治療に行く歯科医院は本当のかかりつけではありません。こんな受診ではいくら頻繁に通院していても歯の状態はどんどん悪化してしまいます。患者さんの健康にプラスではありません。また、体の健康診断のように年に一度定期的に通院して検査を受け、悪いことがあったら治療する…..この定期点検型もちょっとかかりつけとにていますが、やはり本当のかかりつけとはいえません。
「かかりつけ歯科医院」のキーポイントは、個々の人のリスクに応じた口腔ケアを実施することにあります。つまり、的確なリスクの診査と定期的なクリーニングが欠かせません。
「なんだ、そんなことか、クリーニングだけならたいしたことじゃない」と考える人もいるでしょう。問題が起こる前に歯科医院でむし歯や歯周病の原因となる細菌、つまり悪玉菌のすみか(リスク歯面)をきれいにクリーニングするだけでも、むし歯や歯周病のリスクはぐっと低くなります。そのうえで毎日の食生活に気をつけて正しいブラッシングを心がければ健康な歯と歯ぐきをいつまでも保つことができます。
フッ化物による再石灰化
歯の表面の白濁(初期むし歯)は、再石灰化によって治ります。初期むし歯では、歯の表面は破壊されず、薄い表層の下からミネラルが奪われた状態(脱灰)になっています。再石灰化とは、そこにミネラルを戻してあげることで、これができれば初期むし歯は治ります。エナメル質の再石灰化には、フッ化ナトリウム、フッ化スズなどのフッ化物をつかうのが最も効果的です。専門家による高濃度のフッ化物塗布だけでなく、家庭での低濃度のフッ化物を繰り返し使うことも有効です。(フッ化物入りの歯磨き剤や洗口剤など)こうすると、歯の周囲にとどまっている微量のフッ素イオンが、脱灰を防ぎ再石灰化を促進する役目をはたします。またフッ素イオンには、口内細菌の増殖を抑える作用や、殺菌作用もあります。
つまり局所的なフッ化物の使用には、おもに次の三つの効果があります。
①脱灰作用の抑制 ②再石灰化の促進 ③細菌の静菌、殺菌作用
なぜ定期的なクリーニングか
ちょっと耳慣れないことばかもしれませんが、「バイオフィルム」という細菌のすがたを知れば、「どうして定期的にクリーニングする必要があるのか」「どうして薬ではダメなのか」「なぜ家庭での管理だけではうまくいかないのか」などの疑問が解決するはずです。バイオフィルムとは歯周病菌などの微生物や代謝物の集合体で、お風呂の排水溝やシンクの三角コーナーなどのヌルヌルと同じ構造をしています。定期的なクリーニングの目的はバイオフィルムを破壊し除去することなのです。
子供のころからの定期的なクリーニングがだんぜん効果的です。患者さん一人ひとりについてむし歯や歯周病のかかりやすさを調べ、それに基づいてリスクをコントロールすれば、入れ歯になる危険はほとんどなくなります。繰り返しですが「定期的に点検を受けているだけ」ではダメなのです。あくまでバイオフィルムの破壊と除去が重要で、専門的なクリーニングをしない定期的な点検では意味がありません。健康は何ものにも代えがたい財産です。小さい頃からの定期的なクリーニングをあたり前のものにしていきましょう。